スコップと丸めたビニル袋を手に、あみ子は勝手口の戸を開けます。今村夏子のデビュー作『こちらあみ子』は、祖母と二人で暮らすあみ子の、そんな場面から始まる小説です。
あみ子は十五歳のときに、両親と兄と別れました。2022年には、森井勇佑監督の手で映画にもなっています。
記事のポイント
- 映画版のラストは、海辺でおばけたちに手を振る場面
- 映画では前歯でなく鼻が折れ、おばけの行進は映画オリジナル
- 小説は祖母の家の場面で始まり、同じ場面に戻って終わる
- 太宰治賞と三島由紀夫賞を受けた今村夏子のデビュー作
こちらあみ子のネタバレ|あらすじと小説の結末
『こちらあみ子』は、少し風変わりな女の子・あみ子のまっすぐな行動が、周りの人たちを変えていく物語です。小説の最後、あみ子は家族と離れ、祖母の家で暮らしています。

こちらあみ子の作品の基本データ
『こちらあみ子』は、今村夏子が2010年に「あたらしい娘」の題で発表し、太宰治賞を受けたデビュー作です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | 今村夏子 |
| 出版社 | 筑摩書房 |
| 単行本 | 2011年1月6日刊行。「こちらあみ子」「ピクニック」を収録 |
| ちくま文庫 | 2014年6月10日刊行。書き下ろしの「チズさん」を加えた3編を収録 |
| 受賞 | 第26回太宰治賞・第24回三島由紀夫賞 |
| 文庫の解説 | 町田康・穂村弘 |
作者の今村夏子は1980年生まれで、広島県出身です。2019年には「むらさきのスカートの女」で第161回芥川賞を受けました。
単行本は出版社品切れです(2026年11月時点)。
こちらあみ子の主な登場人物
物語の中心は、あみ子と家族、そして同級生ののり君です。
あみ子
少し風変わりな女の子です。幼いころから、父も母も兄も、学校の友達も大好きでした。
父と母
父は優しい人です。母は書道教室の先生で、お腹には赤ちゃんがいます。
兄
あみ子と一緒に登下校をしてくれる兄です。
のり君
あみ子が憧れている同級生です。
祖母とさきちゃん
祖母は、家族と別れたあみ子と二人で暮らしています。坂の上の畑で、きゅうりや三つ葉、茄子や大根などの世話をするのは祖母の役目です。
さきちゃんは近所に住む小学生です。あみ子の家へ遊びにくるときは、いつも竹馬に乗ってきます。
祖母の家の場面から始まる構成
小説は、祖母と暮らすあみ子の場面から始まり、幼いころから中学時代へと進んでいきます。最後は、また祖母の家の場面に戻ってきます。
冒頭、あみ子はスコップと丸めたビニル袋を手に、勝手口の戸を開けます。向かった先は、赤黄色の土がむき出しになった、すみれの咲く場所です。
すみれは、近所に住む小学生のさきちゃんにあげるための花です。あみ子が育てた花を摘んで土産に持たせると、さきちゃんはとても喜びます。
ただ、さきちゃんは「お母さんに怒られました」と言ったことがあります。花を捨てなさい、と言われたそうです。
坂を下りきったあたりで、竹馬に乗ってやってくるさきちゃんが見えてきます。
こちらあみ子のあらすじ
あみ子は幼いころから、父も母も兄も、学校の友達も大好きでした。けれど、家でも学校でも、こんな場面が続きます。
- 学校から一緒に帰るとき、兄は友達を見つけると隠れる
- 母は、自宅の習字教室にあみ子を入れてくれない
- 大声で話しかけると、のり君は友達にからかわれ、下を向いて黙る
そんなあみ子が楽しみにしていたのが、もうすぐ来る赤ちゃんでした。
あみ子の家族に起きたこと
ここから先は、小説の結末までの展開に触れます。
母が赤ちゃんを連れずに帰ってきたあと、あみ子が贈った「弟の墓」の木札をきっかけに、家族はばらばらになっていきます。
母は赤ちゃんを連れて帰らなかった
お腹がぺちゃんこになって帰宅した母は、赤ちゃんを連れて帰りませんでした。
弟の墓の木札を母に贈る
優しいけれど元気のない母のために、あみ子は「弟の墓」の木札をプレゼントします。
そのときから、母は部屋に閉じこもり、口をきかなくなりました。
父は家にいなくなり兄は不良に
父はほとんど家にいなくなり、やがて兄は不良になります。
中学卒業前の父のひと言
中学卒業を前に、あみ子は父から「引っ越しするか」と言われます。
そしてあみ子は十五歳で両親と兄と別れ、祖母と二人で暮らすことになりました。
のり君に殴られて前歯を失う
中学生になったあみ子は、のり君に顔を殴られ、前歯を三本失います。
あみ子は以前、自分でなめたクッキーを、のり君に食べさせていました。
のり君が手を上げたのは、そのクッキーのことを知ったうえに、あみ子から好きだと告げられたときでした。
こちらあみ子の小説の結末
小説の最後、あみ子は祖母の家で、竹馬でやってくるさきちゃんを待っています。
さきちゃんの竹馬はなかなか前に進まず、あみ子のところまでたどり着きません。
そのとき、あみ子は家の中の祖母に名前を呼ばれ、家の中へ入っていきます。さきちゃんがすみれを持ったあみ子のもとへたどり着く前に、小説は終わります。
こちらあみ子のネタバレ考察と映画版のラストの違い
2022年の映画版でも、あみ子は最後に祖母の家で暮らすことになります。ただし終わり方は小説と違い、海辺でおばけたちに手を振る場面で幕を閉じます。

映画版こちらあみ子の結末
ここから先は、映画版の結末に触れます。
映画のあみ子は、父に祖母の家へ預けられます。最後は海辺で、舟に乗ったおばけたちに手を振って終わります。
映画の作品データとキャスト
映画『こちらあみ子』は2022年7月8日に公開されました。上映時間は104分、配給はアークエンタテインメントです。
監督・脚本は森井勇佑で、本作が監督デビュー作です。音楽は青葉市子が手がけています。主な配役は次のとおりです。
- あみ子:大沢一菜
- お父さん・哲郎:井浦新
- お母さん・さゆり:尾野真千子
大沢一菜は、応募総数330名のオーディションから選ばれました。
映画のあみ子は、広島に暮らす小学5年生です。誕生日にもらった電池切れのトランシーバーに、「応答せよ、応答せよ。こちらあみ子」と話しかけます。
父があみ子を祖母の家に預ける
映画の終盤、父はあみ子を田舎の祖母の家に預け、あみ子を残して帰っていきます。
海辺でおばけに手を振るラスト
ラストは海辺の場面です。行進の場面にも出てきたおばけたちが、舟に乗って海の上からあみ子を手招きします。
あみ子は、おばけたちに手を振ります。「まだ冷たいじゃろ」と声をかけられると、あみ子は「大丈夫じゃ」と元気に答えます。
小説と映画で違うところ
映画には、原作にはないオリジナルの場面が加えられています。とくに違うのは次の3つの場面です。
| 場面 | 小説 | 映画 |
|---|---|---|
| 物語の始まり | 祖母と暮らすあみ子の場面 | 広島に暮らす小学5年生のあみ子 |
| 殴られたあと | 前歯を三本失う | 鼻が折れ、顔にバッテンのテープを貼る |
| 最後の場面 | 祖母に名前を呼ばれ、家の中へ入る | 海辺でおばけたちに手を振り、「大丈夫じゃ」と答える |
前歯ではなく鼻が折れる
小説のあみ子は、のり君に殴られて前歯を三本失います。映画では鼻が折れたことにして、あみ子の顔に大きくバッテンの形のテープを貼りました。
歯を鼻に変えたのは、予算の問題でした。脚本の一稿は、原作と同じく歯が欠ける形で書かれていました。
おばけの行進は映画オリジナル
あみ子が裸足で廊下を歩く音がリズムになり、おばけたちが現れるミュージカルの場面は、映画オリジナルです。
脚本が鬱々とした内容になってきたため、森井監督が「もっとハネたものにしたい」と思いついた場面でした。脚本を受け取った今村夏子からは、「おばけのシーンが楽しみです」と返事が届いています。
物語の始まり方と終わり方
脚本の一稿は、おばあちゃんの家に行ったあとのあみ子から始まっていました。完成した映画は、小学5年生のあみ子の日々から描かれます。
終わり方も違います。小説は祖母に呼ばれて家に入る場面、映画は海辺でおばけたちに手を振る場面で終わります。
こちらあみ子の考察と読みどころ
あみ子の純粋な行動が、周りの人たちを否応なく変えていく。それが小説と映画に共通する軸です。
エンドロールのトランシーバーの絵
映画のエンドロールでは、大沢一菜の名前がクレジットされるところに、トランシーバーの絵が描かれています。森井監督の名前の横にも同じ絵があり、二人はトランシーバーでつながっているのです。
森井監督は、作り手のみんながあみ子をひとりにしないようにしていた、とも語っています。電池切れのトランシーバーに話しかけていたあみ子を思うと、胸に残る絵です。
あみ子のやさしさが家族を変えていく
「弟の墓」の木札は、元気のない母を思ってあみ子が贈ったものでした。それなのに、そのときから母は口をきかなくなり、家族の形が変わっていきます。
やさしさから出た行動が、かえって家族を遠ざけてしまいます。
小説のラストで会えないさきちゃん
小説の最後、さきちゃんはあみ子のところまでたどり着かず、あみ子は祖母に呼ばれて家に入ります。家族と離れたあとも、あみ子に会いに来る子と、あみ子の名前を呼ぶ人がいる場面で、物語は閉じます。
映画と小説を楽しめるところ
映画はU-NEXTで見放題、小説はちくま文庫で読めます(2026年11月時点)。
映画はU-NEXTで見放題
映画『こちらあみ子』は、U-NEXTの作品ページから見放題で観られます(2026年11月時点)。
小説はちくま文庫で読める
ちくま文庫版には、「こちらあみ子」「ピクニック」「チズさん」の3編が入っています。書誌は筑摩書房の作品ページにまとまっています。
小説はちくま文庫で読めます。
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こちらあみ子に関するよくある質問(FAQ)
Q1. こちらあみ子はどんな話ですか?
A. 少し風変わりな女の子・あみ子のまっすぐな行動が、周りの人たちを変えていく物語です。母が赤ちゃんを連れずに帰ってきたあと、家族は変わっていきます。あみ子は十五歳で両親と兄と別れ、祖母と二人で暮らすことになります。
Q2. 小説の最後、あみ子はどうなりますか?
A. 祖母の家で、竹馬でやってくるさきちゃんを待っています。さきちゃんがたどり着く前に、あみ子は祖母に名前を呼ばれて家の中へ入り、物語は終わります。
Q3. あみ子はなぜのり君に殴られたのですか?
A. あみ子は以前、自分でなめたクッキーをのり君に食べさせていました。のり君はそのことを知ったうえに、あみ子から好きだと告げられたときに手を上げています。小説のあみ子は前歯を三本失い、映画では鼻が折れます。
Q4. 母の赤ちゃんはどうなったのですか?
A. お腹がぺちゃんこになって帰宅した母は、赤ちゃんを連れて帰りませんでした。あみ子が「弟の墓」の木札を贈ったときから、母は部屋に閉じこもり、口をきかなくなります。
Q5. 小説と映画で結末は違いますか?
A. 違います。小説は、あみ子が祖母に呼ばれて家の中へ入る場面で終わります。映画は、父に祖母の家へ預けられたあみ子が、海辺でおばけたちに手を振り、「大丈夫じゃ」と答える場面で終わります。
原作小説と映画で結末が分かれる作品なら、廃用身のネタバレ|小説と映画の結末の違いとラストシーンの意味もどうぞ。
こちらあみ子のネタバレまとめ
『こちらあみ子』は、あみ子のまっすぐな行動が家族を変えていき、あみ子が祖母と暮らすことになるまでを描いた物語です。
- 母は赤ちゃんを連れて帰らず、「弟の墓」の木札をきっかけに部屋に閉じこもる
- 父はほとんど家にいなくなり、兄は不良になる
- 中学生のあみ子は、のり君に殴られて前歯を三本失う
- あみ子は十五歳で両親と兄と別れ、祖母と二人で暮らす
- 小説は、さきちゃんを待つあみ子が祖母に呼ばれて家に入る場面で終わる
- 映画は、海辺でおばけたちに手を振り、「大丈夫じゃ」と答える場面で終わる
- 映画はU-NEXTで見放題、小説はちくま文庫で読める(2026年11月時点)
