「私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う。」——吉本ばななさんのデビュー作『キッチン』は、この一文から始まります。
祖母を亡くしてひとりになった桜井みかげが、田辺雄一と、その母(実は父親)のえり子の家に身を寄せる物語です。続編の「満月――キッチン2」では、そのえり子の身に大きな出来事が起こります。
記事のポイント
- 祖母を亡くしたみかげは、雄一とえり子の田辺家で暮らし始める
- 続編「満月」の冒頭で、えり子は殺される
- みかげは伊豆のカツ丼を、夜にタクシーで雄一のもとへ届ける
- 1989年の映画ではえり子は死なず、四人の同居で終わる
吉本ばなな『キッチン』のネタバレとあらすじ
ここから先は、「キッチン」「満月――キッチン2」「ムーンライト・シャドウ」の結末に触れます。
新潮文庫の『キッチン』には3編が入っています。表題作と続編の「満月――キッチン2」、別の物語の「ムーンライト・シャドウ」です。3編とも、大切な人を亡くした女性が主人公です。

桜井みかげ・田辺雄一・えり子の主な登場人物
「キッチン」と「満月」の中心は、語り手の桜井みかげと、田辺雄一・えり子の親子です。「ムーンライト・シャドウ」は、さつきという別の女性の物語になります。
桜井みかげ
物語の語り手で、台所がいちばん好きな女性です。両親はそろって若死にし、祖父母に育てられました。
唯一の肉親だった祖母を亡くし、ひとりきりになったところから物語が始まります。
田辺雄一
みかげよりひとつ歳下の青年です。みかげの祖母が通っていた花屋でアルバイトをしていて、祖母の葬式の手伝いもしてくれました。
田辺えり子
雄一の「母」ですが、実は父親です。妻を亡くしたあと女性として生きるようになり、店を営んでいます。
みかげを家に迎え入れ、人生について印象に残る言葉をいくつも口にする人物です。
「ムーンライト・シャドウ」の人物
- さつき:恋人の等を亡くした女性
- 等:さつきの恋人。事故で亡くなる
- 柊:等の弟。恋人のゆみこも亡くしている
- うらら:さつきが出会う不思議な女性
「キッチン」|祖母を亡くしたみかげと田辺家
祖母を亡くしたみかげは、雄一に誘われて田辺家で暮らし始めます。雄一と、母として生きるえり子との奇妙な同居です。
台所で眠るみかげと雄一の誘い
田辺家に来る前のみかげは、毎日台所で眠っていました。祖母が死んで、家にはみかげひとりです。
そこへ訪ねてきたのが雄一でした。雄一はみかげに「しばらくうちに来ませんか」と声をかけます。
えり子の言葉と田辺家の暮らし
田辺家での暮らしの中で、えり子はみかげにまっすぐな言葉をかけます。とくによく知られているのが次の2つです。
- 「人生は本当にいっぺん絶望しないと」で始まる、絶望についての言葉
- 「本当にひとり立ちしたい人は、なにかを育てるといいのよね」
前者は、いっぺん絶望しないと自分の本当に捨てられないところがわからない、という内容です。
バスの中で泣いたみかげ
祖母と暮らした家を引き払うころ、みかげはバスに乗ります。そこで祖母と孫のやりとりを耳にし、涙が止まらなくなりました。
「満月――キッチン2」|えり子の死とカツ丼の夜
続編の「満月」は、えり子の死から始まります。とくに知られているのが、みかげが伊豆のカツ丼を雄一のもとへ届ける夜です。
「満月」の冒頭で殺されたえり子
「満月」の冒頭で、えり子は殺されます。
母であり父でもあったえり子を失い、雄一はひとりになります。祖母を亡くしたみかげと同じ立場に、今度は雄一が立たされるわけです。
伊豆のカツ丼をタクシーで届ける夜
仕事で伊豆に出張していたみかげは、ある店のカツ丼のおいしさに感動します。そこで持ち帰りを頼み、夜にタクシーで雄一のいる宿まで届けに行きました。
作者の吉本ばななさんは平野啓一郎さんとの対談で、こう話しています。人間の三大欲求のうち、性欲以外の欲に関する物語を書きたかった、と。食べることが二人をつなぐ、この作品らしい場面です。
「ムーンライト・シャドウ」|恋人を亡くしたさつき
「ムーンライト・シャドウ」は、4年付き合った恋人の等を交通事故で亡くした、さつきの物語です。山場では、早朝の橋でさつきが等の姿を見ます。
恋人の等を亡くしたさつき
さつきは、4年付き合った恋人の等を交通事故で失います。等の弟の柊も、恋人のゆみこを亡くしています。
この作品は、吉本ばななさんの日本大学芸術学部1986年度の卒業制作です。芸術学部長賞を受けました。
早朝の橋で見た等の姿
さつきは、うららという女性に導かれて早朝の橋へ向かいます。そこで川の向こうに等の姿を見ました。
等はさつきに手を振り、やがて見えなくなります。
2021年の映画と予告映像
「ムーンライト・シャドウ」は映画化され、2021年9月に公開されました。予告映像は新潮社のチャンネルで見られます。
「キッチン」「満月」「ムーンライト・シャドウ」の3編は、新潮文庫の1冊に入っています。
キッチンの結末とみかげと雄一のその後
原作の「満月」で、みかげと雄一は「永遠のフレンド」になるのか恋人になるのかの岐路に立ちます。カツ丼を届けたあと、雄一から電話がかかってきます。
「永遠のフレンド」か恋人かの岐路
物語の佳境で、みかげは雄一との関係の分かれ道にいます。作中の言葉を借りると、このまま「永遠のフレンド」になるのか、恋人になるのかという岐路です。
カツ丼のあとの雄一からの電話
カツ丼を届けたあと、雄一からみかげに電話があります。雄一は電話で、東京でみかげの帰りを待っていると伝えます。
なお、1989年の映画では、みかげと雄一は友人から恋人に変わります。ここは原作と結末が違うところです。
『キッチン』の映画と文庫
『キッチン』は1989年に森田芳光監督で映画になり、1997年には香港・日本合作でも映画化されました。文庫は新潮文庫と角川文庫から出ています。
1989年の森田芳光監督の映画と原作の違い
1989年の映画では、えり子(映画では絵理子)は死にません。結末も、みかげと雄一が恋人になり、四人でマンションに同居する形です。
1989年の映画のスタッフとキャスト
1989年10月29日公開、上映時間は106分。配給は松竹です。
- 監督・脚本:森田芳光
- 撮影:仙元誠三
- 音楽:野力奏一
- みかげ:川原亜矢子
- 雄一:松田ケイジ
- 絵理子:橋爪功
- 麦原医師:四谷シモン
映画の結末と原作の違い
映画のみかげは雄一の家を出て、同僚の多美恵(浦江アキコ)とアパートで暮らし始めます。絵理子は店を辞め、精神病院に入院します。
雄一の誕生日、絵理子は麦原医師を連れて帰ってきます。麦原は病院を辞めてプラネタリウムの仕事につき、絵理子と暮らす決心をしていました。原作との違いは次のとおりです。
| 項目 | 原作 | 1989年の映画 |
|---|---|---|
| えり子 | 「満月」の冒頭で殺される | 店を辞めて入院し、麦原医師と帰ってくる |
| みかげと雄一 | 「永遠のフレンド」か恋人かの岐路に立つ | 友人から恋人に変わる |
| 終盤 | 伊豆のカツ丼を届けたあと、雄一から電話が来る | 四人がマンションで同居する |
1997年の香港・日本合作の映画
1997年の『kitchen キッチン』は、香港・日本合作の映画です。原作は「キッチン」と「満月 キッチン2」です。
- 監督・脚本:イム・ホー
- 出演:富田靖子(アギー)、ジョーダン・チャン
- 日本公開:1997年12月13日(110分・配給アミューズ)
新潮文庫・角川文庫と受賞歴
新潮文庫には3編と文庫版あとがきが入っていて、価格は539円(税込・2026年10月時点)です。受賞歴は、1987年の海燕新人文学賞から始まります。
新潮文庫の『キッチン』
新潮文庫版は2002年6月28日の発売で、208ページです。収録作は次の4つ。
- キッチン
- 満月――キッチン2
- ムーンライト・シャドウ
- そののちのこと(文庫版あとがき)
冒頭の数ページは、新潮社の試し読みページで読めます(2026年10月時点)。
角川文庫の『キッチン』
角川文庫版は1998年6月23日の発売で、208ページです。書誌上の定価は462円(本体420円+税)となっています。
単行本と受賞歴
単行本は1988年1月30日に福武書店から出ました。2018年の時点で、世界35カ国で読み継がれている作品です。受賞歴は次のとおりです。
- 1987年:『キッチン』で海燕新人文学賞を受けてデビュー
- 1988年:『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞
- 1989年:『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞
吉本ばななさんは前出の対談で、あとがきに書いたのは「人生というのは生きるに値するもの」ということだと話しています。
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吉本ばなな『キッチン』に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 『キッチン』のえり子は死にますか?
A. 原作では、続編「満月――キッチン2」の冒頭で殺されます。1989年の映画では死なず、入院したあと麦原医師と帰ってきます。
Q2. 『キッチン』に続編はありますか?
A. 「満月――キッチン2」が続編です。単行本にも新潮文庫にも、表題作と一緒に収録されています。
Q3. カツ丼の場面はどの話に出てきますか?
A. 「満月――キッチン2」です。伊豆に出張中のみかげがカツ丼に感動し、持ち帰りにして、夜にタクシーで雄一のいる宿へ届けます。
Q4. 『キッチン』の映画には誰が出ていますか?
A. 1989年の森田芳光監督版は、みかげを川原亜矢子さん、雄一を松田ケイジさん、絵理子を橋爪功さんが演じています。1997年の香港・日本合作版の主演は富田靖子さんです。
Q5. 「ムーンライト・シャドウ」の等の死因は何ですか?
A. 交通事故です。さつきは4年付き合った恋人の等を事故で亡くし、早朝の橋で川の向こうに等の姿を見ます。
吉本ばなな『キッチン』のネタバレまとめ
吉本ばなな『キッチン』は、大切な人を亡くした人たちが、台所と食べることをめぐる物語です。
- 祖母を亡くしたみかげは、雄一とえり子の田辺家で暮らし始める
- えり子は「なにかを育てるといい」とみかげに語る
- 「満月」の冒頭で、えり子は殺される
- みかげは伊豆のカツ丼を、夜にタクシーで雄一の宿へ届ける
- 二人は「永遠のフレンド」か恋人かの岐路に立つ
- 「ムーンライト・シャドウ」のさつきは、早朝の橋で亡き恋人の等の姿を見る
- 1989年の映画ではえり子は死なず、四人の同居で終わる

