信州の那須湖畔にある本宅で、日本の生糸王といわれた犬神佐兵衛が81歳で亡くなります。残された遺言状には、血で血を洗う争いを予期したかのような条件がついていました。
横溝正史の『犬神家の一族』は、これまで度々映像化されてきた金田一耕助ものの長編推理小説です。
記事のポイント
- 遺言状の条件と、斧・琴・菊の家宝をめぐる一族の争い
- NHK版(2023年)はラスト10分の面会の場面が原作と違う
- 角川文庫の金田一耕助ファイルでは5番目の作品
- 連続殺人の犯人と、マスクの男の正体・佐清と珠世の結末がわかる
犬神家の一族のネタバレ|遺言状から原作の結末まで
『犬神家の一族』は、犬神財閥の創始者・犬神佐兵衛の死後、莫大な遺産をめぐって連続殺人が起こる物語です。

犬神家の一族の基本情報
『犬神家の一族』は横溝正史の長編推理小説で、角川文庫では「金田一耕助ファイル5」として出ています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | 横溝正史 |
| 書名 | 犬神家の一族 金田一耕助ファイル5 |
| 出版社 | KADOKAWA(角川文庫) |
| 文庫の発売 | 1972年6月12日(432ページ) |
| 電子版の発売 | 2001年11月9日 |
| 舞台 | 信州の那須湖畔 |
文庫の書誌はKADOKAWAの作品ページにまとまっています。
金田一耕助ファイルでは5番目の作品です。1番目は八つ墓村、4番目は『悪魔が来りて笛を吹く』です。
主な映像化は次のとおりです。
- 1976年の映画:市川崑監督・東宝配給。金田一耕助は石坂浩二
- 2006年の映画:市川崑監督と石坂浩二のコンビで30年ぶりにリメイク。東宝配給
- 2023年のNHKドラマ:前後編各90分。吉田照幸演出・小林靖子脚本で、金田一耕助は吉岡秀隆
原作の小説は角川文庫で読めます。
主な登場人物
物語の中心は、犬神佐兵衛の3人の娘とその息子たちです。そこに、佐兵衛に引き取られた野々宮珠世が加わります。
犬神佐兵衛
犬神財閥の創始者で、日本の生糸王といわれた人物です。幼くして孤児となり、17歳まで乞食同様に流れ歩いていました。
行き倒れていたところを那須神社の神官・野々宮大弐に介抱され、そこから運がひらけます。佐兵衛は終生、この恩を忘れませんでした。
犬神松子と佐清
松子は犬神家の長女で、自分たち三姉妹に愛情を注がなかった父・佐兵衛を憎んでいます。一人息子は佐清(すけきよ)です。
佐清は戦争でひどいけがを負い、マスクで顔を覆っています。一族からは「本当に佐清本人なのか」と疑われます。
犬神竹子と佐武
竹子は次女で、松子・梅子とは腹違いの姉妹です。夫の寅之助、息子の佐武(すけたけ)、娘の小夜子とともに遺産を狙います。
犬神梅子と佐智
梅子は三女です。夫の幸吉、息子の佐智(すけとも)とともに、やはり遺産を狙っています。
野々宮珠世
両親を亡くし、佐兵衛に引き取られて犬神家で暮らしています。幼いころから佐清を慕っています。
物語の語り手は、珠世を「この物語の主人公」と呼びます。
青沼静馬
犬神佐兵衛の隠し子です。静馬をめぐる謎は、「原作の犯人と結末」で明かします。
金田一耕助
数々の難事件を解決してきた名探偵です。佐兵衛の遺言状の内容を知った弁護士・若林から依頼を受け、犬神家を訪れます。
発端と遺言状のあらすじ
物語は、犬神佐兵衛の死と、一族を争わせる条件つきの遺言状から始まります。
昭和二十×年二月、佐兵衛は信州那須湖畔の本宅で、81歳で亡くなりました。
行き倒れていた佐兵衛を救ったのが、那須神社の神官・野々宮大弐です。大弐と妻の晴世のあいだには、祝子という子がいました。のちに祝子が養子を迎えて生まれたのが、珠世です。
語り手は冒頭で、佐兵衛の死後に一族を襲った殺人が、すべて野々宮家への報恩の念から始まったと明かします。
佐兵衛が残した遺言状は、血で血を洗う争いを予期したかのような条件つきでした。
犬神家の全財産と全事業の相続権を意味するのが、斧(よき)・琴・菊の3つの家宝です。遺言状は、佐清・佐武・佐智のいずれかとの結婚を条件に、この家宝を珠世に譲るとしていました。
遺言状の内容を知った弁護士・若林は、金田一耕助に依頼を出します。しかし、その若林は何者かに殺されてしまいます。
やがて、マスクの佐清が本物かどうかを一族が疑うなか、遺産をめぐる連続殺人が続いていきます。
原作の犯人と結末
ここから先は、原作の犯人と結末に触れます。
原作の連続殺人の犯人は、佐兵衛の長女・犬神松子です。
犯人は犬神松子とその動機
松子が手にかけたのは、次の4人です。
- 弁護士の若林
- 竹子の息子・佐武
- 梅子の息子・佐智
- 湖で逆さの死体となって見つかった男
動機は、一人息子の佐清に犬神家の財産を継がせることでした。松子は、犬神家を誰にも渡すまいとしていたのです。
マスクの男の正体は青沼静馬
マスクで顔を覆って犬神家に戻った「佐清」は、本物ではありません。正体は、佐兵衛の隠し子・青沼静馬です。
静馬は佐清に成りすまし、犬神家に復讐を遂げようとしていました。本物の佐清は、別に生きていたのです。
湖の逆さの死体は静馬
湖から逆さに突き出た死体は、佐清ではなく静馬でした。マスクの男の正体が静馬だと知った松子が、逆上して手にかけたのです。
松子の最期
すべてが明らかになったあと、松子は若林の命を奪ったのと同じ毒入りのたばこを吸い、自ら命を絶ちます。
佐清は母をかばって細工に加わった
本物の佐清は、母・松子をかばうため、静馬に脅されて死体の細工に加わっていました。
佐武と佐智の遺体に残された、家宝の菊と琴になぞらえる見立ては、静馬と佐清の手によるものです。
佐清が「連続殺人の犯人は自分だ」と名乗り出たのも、母をかばうためでした。
珠世は佐清を待つと答える
罪を償うことになった佐清を、珠世は待つと答えます。
珠世は佐兵衛の実の孫
発端で「この物語の主人公」と紹介された珠世は、佐兵衛の実の孫でした。
犬神家の一族のネタバレ考察|映像化ごとの結末の違い
連続殺人の犯人が松子である点は、1976年と2006年の映画、2023年のNHK版で共通しています。大きく違うのは、NHK版のラスト10分です。

| 版 | 犯人と結末 |
|---|---|
| 原作 | 犯人は松子。松子は毒入りのたばこで命を絶ち、珠世は佐清を待つ |
| 1976年(市川崑) | 犯人は松子。毒入りのたばこと、珠世が佐清を待つ結末は原作と同じ |
| 2006年(市川崑) | 犯人は松子。1976年版を同じ監督と主演でリメイク |
| 2023年(NHK) | 犯人は松子。ラスト10分で金田一が刑務所の佐清と面会する |
1976年版(市川崑監督)
1976年版も犯人は松子です。松子が毒入りのたばこを吸って倒れ、珠世が佐清の出てくるまで待つという結末は、原作と同じ形です。
市川崑監督・東宝配給の作品で、1976年10月16日にロードショーされました。上映時間は146分です。
角川映画の第1弾でもあり、配収13億200万円を記録して、この年の日本映画で第2位のヒットになりました。
- 金田一耕助:石坂浩二
- 犬神佐兵衛:三國連太郎
- 犬神松子:高峰三枝子
- 野々宮珠世:島田陽子
- 犬神佐清:あおい輝彦
湖面から2本の足が突き出た死体の場面は、のちの映像化でも作品を象徴する絵になりました。遺言状の公開の場で正体を疑われた佐清が、白いマスクをめくり上げる場面も、後に続く作品の定番です。
2006年版(市川崑監督)
2006年版は、市川崑監督と石坂浩二主演のコンビのまま、30年ぶりにリメイクされた作品です。犯人が松子である点は、原作や1976年版と変わりません。
2006年12月16日に公開され、配給は東宝です。主な配役は次のとおりです。
- 金田一耕助:石坂浩二
- 犬神松子:富司純子
- 野々宮珠世:松嶋菜々子
- 青沼静馬:尾上菊之助
NHK版(2023年・吉田照幸演出)
NHK版も犯人は松子ですが、静馬が佐清に成りすました理由と、ラスト10分の場面が原作と大きく違います。
前編は2023年4月22日、後編は4月29日に、BSプレミアムとBS4Kで放送されました。前後編各90分で、演出は吉田照幸、脚本は小林靖子です。
NHK版の金田一シリーズでは、2019年の八つ墓村に続く第4弾です。主な配役は次のとおりです。
- 金田一耕助:吉岡秀隆
- 犬神松子:大竹しのぶ
- 野々宮珠世:古川琴音
- 犬神佐清と青沼静馬:金子大地(一人二役)
- 犬神竹子:南果歩
- 犬神梅子:堀内敬子
NHK版の金田一シリーズの第5弾は、悪魔の手毬唄です。
静馬が佐清に成りすました理由
NHK版の静馬が佐清に成りすましたのは、財産でも復讐でもなく、母親の愛を得るためでした。
ラスト10分の刑務所の面会
ラスト10分は、金田一が刑務所にいる佐清と面会する場面です。
佐清は、母・松子を刑務所に送りたくない一心で共犯者になったと話していました。金田一の推理は、それを根底から覆すものです。
その推理は、佐清こそが事件の黒幕だったのではないかというものでした。佐清は「金田一さん、あなた病気です」とだけ答え、金田一の推理が真実なのかは定かではありません。
NHK版の前編・後編の再放送
NHK版の前編と後編は、2023年9月8日にBSプレミアムとBS4Kで再放送されました。放送の予定は編成で変わるので、NHKの番組ページで確かめるのが確実です。
犬神家の一族に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 犬神家の一族の犯人は誰ですか?
A. 原作の連続殺人の犯人は、佐兵衛の長女・犬神松子です。動機は、一人息子の佐清に犬神家の財産を継がせることでした。
Q2. スケキヨ(佐清)の正体は誰ですか?
A. マスクで顔を覆って戻った「佐清」の正体は、佐兵衛の隠し子・青沼静馬です。本物の佐清は別に生きていて、母をかばうために死体の細工に加わっていました。
Q3. 珠世は最後どうなりますか?
A. 罪を償うことになった佐清を、待つと答えます。珠世は、佐兵衛の実の孫でした。
Q4. 原作と映画で犯人は同じですか?
A. 同じです。1976年と2006年の映画、2023年のNHK版でも、犯人は松子です。NHK版はラスト10分で、佐清が黒幕だったのではないかという金田一の推理が描かれます。
Q5. 犬神家の一族はシリーズの何番目に読めばいいですか?
A. 角川文庫の金田一耕助ファイルの番号では、5番目にあたります。1番目は八つ墓村、2番目は本陣殺人事件、3番目は獄門島、4番目は悪魔が来りて笛を吹くです。
昭和の名作の結末をもう1本読むなら、銀河鉄道999の結末を原作・アニメ・劇場版で比べた記事もどうぞ。
犬神家の一族のネタバレまとめ
『犬神家の一族』は、佐兵衛の遺言状をきっかけに、遺産をめぐる連続殺人が起こる物語です。
- 遺言状は、佐清・佐武・佐智のいずれかとの結婚を条件に、家宝の斧・琴・菊を珠世に譲るとした
- 原作の犯人は犬神松子で、動機は佐清に犬神家の財産を継がせること
- マスクの男の正体は青沼静馬で、湖の逆さの死体も静馬
- 松子は毒入りのたばこで自ら命を絶ち、珠世は罪を償う佐清を待つと答える
- 珠世は佐兵衛の実の孫
- 1976年・2006年の映画とNHK版でも、犯人は松子
- NHK版はラスト10分で、刑務所の佐清に金田一が推理をぶつける
- 角川文庫の金田一耕助ファイルでは5番目

