「これ以上の屈辱、不名誉にたえられない」。青酸カリ毒殺の天銀堂事件で容疑をかけられた椿元子爵は、娘の美禰子にそう遺書を残して姿を消しました。
以来、椿家では“悪魔が来りて笛を吹く”というフルート曲の音色とともに、死が続きます。横溝正史作品には珍しい、東京の元華族の屋敷を舞台にしたミステリです。
記事のポイント
- 発端は銀座の宝石店の毒殺事件「天銀堂事件」と、椿元子爵の失踪
- 砂占いの夜、死んだはずの英輔のフルートの音色が響く
- 2018年のNHK版は、ラストと曲を吹く人物が原作と違う
- 角川文庫の「金田一耕助ファイル」では4番目の作品
悪魔が来りて笛を吹くのネタバレ|天銀堂事件から原作の結末まで
『悪魔が来りて笛を吹く』は、天銀堂事件の容疑者とされた椿元子爵の失踪から、椿家の連続殺人へと続く物語です。事件の裏には、旧華族のゆがんだ人間関係が隠れています。

悪魔が来りて笛を吹くの基本情報
『悪魔が来りて笛を吹く』は横溝正史の長編ミステリで、角川文庫では「金田一耕助ファイル4」として出ています。原作は1951年に発表されました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | 横溝正史 |
| 書名 | 悪魔が来りて笛を吹く 金田一耕助ファイル4 |
| 出版社 | KADOKAWA(角川文庫) |
| 文庫の発売 | 1972年2月24日(480ページ) |
| 電子版の発売 | 2001年10月12日 |
| 舞台 | 東京の元華族・椿家の屋敷 |
文庫の書誌はKADOKAWAの作品ページにまとまっています。主な映像化は次のとおりです。
- 1954年の映画:松田定次監督。金田一耕助は片岡千恵蔵
- 全5話のテレビドラマ:鈴木英夫監督・毎日放送と東宝の製作。金田一耕助は古谷一行
- 1979年の映画:斎藤光正監督・東映配給。金田一耕助は西田敏行
- 2018年のNHK BSプレミアムのドラマ:吉田照幸演出。金田一耕助は吉岡秀隆
原作の小説は角川文庫で読めます。
主な登場人物
物語の中心にいるのは、元子爵の椿家と、秌子の兄・新宮利彦の一家です。そこへ探偵の金田一耕助が呼ばれます。
椿英輔
元子爵で、美禰子の父です。天銀堂事件の容疑者とされ、遺書を残して姿を消します。
椿秌子
英輔の妻で、美禰子の母です。英輔の死後、その幻を見たと怯えるようになります。
椿美禰子
英輔と秌子の娘です。父の無実を信じ、金田一耕助に調べを頼みます。
新宮利彦
秌子の兄で、妻は華子です。
三島東太郎
椿家の書生です。植木職人のもとで育ち、戦後に英輔と知り合って椿家で暮らすようになりました。
屋敷の雑務を一手に引き受け、皆から頼りにされています。
金田一耕助
本陣殺人事件で一躍有名になった探偵です。美禰子の依頼で椿家を訪れ、殺人事件の捜査に乗り出します。
そのほかの人物
椿邸のまわりには、ほかにも次の人物がいます。
- 玉虫公丸:秌子の伯父で、元伯爵
- 菊江:椿家のお手伝い
- 目賀重亮:椿邸で砂占いを行う博士
- 等々力警部:金田一とは旧知の仲の警部
天銀堂事件から砂占いの夜までのあらすじ
発端は、銀座の宝石店で起きた青酸カリの毒殺事件「天銀堂事件」です。容疑をかけられた英輔が姿を消し、椿家で惨劇が始まります。
語り手が「書きたくない」と打ち明ける第一章
第一章の冒頭で、語り手の「私」はこの恐ろしい物語を書きたくないと打ち明けます。あまりにも陰惨で、呪いと憎しみに満ちているからです。
語り手の机の上には、金田一耕助から提供された一枚の写真と、一枚のレコードの片面があります。
天銀堂事件と椿英輔の失踪
英輔は天銀堂事件の犯人に似ていたため、容疑者として警察の取り調べを受けました。やがて英輔は、遺書を娘の美禰子に残して失踪します。
英輔はのちに遺体で見つかります。それでも秌子や周りの人々は、死んだはずの英輔らしき人物を見かけるようになりました。
砂占いの夜に響くフルートの音色
英輔の生死を占うため、椿邸で「砂占い」が開かれます。金田一耕助も、美禰子の依頼で立ち会いました。
その席で、死んだはずの英輔が奏でるフルートの音色が響きます。そして砂占いの夜、玉虫元伯爵が殺されました。
椿家の惨劇はそこで終わりません。自殺と他殺を合わせて、7人の命が奪われていきます。
原作の犯人と結末
ここから先は、原作の犯人と結末に触れます。
椿家の連続殺人の犯人は、書生の三島東太郎です。英輔の遺したフルート曲が示す「悪魔」も、この東太郎でした。
犯人は三島東太郎=正体は河村治雄
三島東太郎の正体は、河村治雄です。本物の三島東太郎は、戦争で亡くなっています。
悪魔の正体と出生の秘密
「悪魔」とは、治雄のことです。治雄は、秌子とその兄・新宮利彦のあいだに生まれた子でした。
英輔が命を絶った理由も、天銀堂事件の嫌疑ではありません。秌子と利彦の関係と、治雄の出生を知ったためでした。
動機は小夜子の自殺への復讐
治雄の動機は、恋人・小夜子の死への復讐です。小夜子は利彦の娘で、治雄とは父が同じ妹にあたります。
小夜子は二人の出生を知り、自ら命を絶ちました。治雄は、自分たちを産んだ者たちへの復讐に動きます。
その一人である秌子も、最後は毒によって命を落とします。
フルート曲に隠された指の仕掛け
英輔の遺したフルート曲は、右手の中指と薬指を使わずに吹けるように作られていました。治雄の右手は、戦争で中指と薬指が欠けています。
曲そのものが、悪魔は治雄だと示す手がかりだったわけです。
治雄の最期
最後に治雄は、自らフルートであの曲を吹き、命を落とします。最終章の題は「悪魔笛を吹きて終わる」です。
天銀堂事件の真犯人は飯尾豊三郎
天銀堂事件の真犯人は、英輔に似た男・飯尾豊三郎でした。飯尾は治雄に利用され、のちに殺されます。
悪魔が来りて笛を吹くのネタバレ考察|映像化ごとの結末の違い
2018年のNHK版も1979年の映画も、原作とは違う形で事件を描いています。NHK版は、東太郎が出生を知る時期とラストが変わりました。

| 項目 | 原作 | 2018年のNHK版 |
|---|---|---|
| 犯人 | 三島東太郎(河村治雄) | 三島東太郎(河村治雄) |
| 出生を知る時期 | 知ったうえで復讐に動く | 金田一に告げられるまで知らない |
| 曲を吹く人物 | 治雄が自ら吹く | 事件のあと、新宮一彦が吹く |
| ラスト | 治雄が曲を吹いて命を落とす | 東太郎が秌子を手にかけ、等々力警部に撃たれる |
2018年のNHK版(吉岡秀隆)の結末と原作の違い
2018年のNHK版も、犯人は三島東太郎=河村治雄で原作と同じです。原作との違いは、大きく3つあります。
NHK版は、2018年7月28日にNHK BSプレミアムで放送されました。演出は吉田照幸、脚本は喜安浩平です。主なキャストは次のとおりです。
- 金田一耕助:吉岡秀隆
- 椿美禰子:志田未来
- 三島東太郎:中村蒼
- 菊江:倉科カナ
- 椿英輔:益岡徹
- 椿秌子:筒井真理子
- 新宮利彦:村上淳
- 等々力警部:池田成志
東太郎は謎解きまで出生を知らない
NHK版の東太郎は、金田一に告げられるまで自分の出生を知りません。原作の治雄は、出生を知ったうえで復讐に動いていました。
ラストで東太郎は秌子を手にかける
NHK版のラストでは、真実を知った東太郎が秌子を手にかけます。東太郎は等々力警部に撃たれ、最期を迎えました。原作にはない結末です。
事件のあとに一彦が曲を吹く
NHK版で最後にあの曲を吹くのは、新宮一彦です。その演奏から金田一は、中指と薬指を使わない曲だと気づきます。
1979年の映画(西田敏行)は犯行側が兄妹
1979年の映画では、連続殺人を起こすのが兄妹です。犯行側が兄妹の二人組になっている点が、原作と違います。
斎藤光正監督、西田敏行主演の東映の作品で、1979年1月20日に公開されました。製作は角川春樹で、原作者の横溝正史も出演しています。
2018年のNHK版の放送予定は番組ページで確認
2018年のNHK版は、NHK BSで再放送が組まれた作品です。NHKの金田一シリーズ5作目『悪魔の手毬唄』の放送に先立って組まれた再放送です。
放送の予定は編成で変わるため、NHKの番組ページで確かめるのが確実です。NHKはこれまでに、横溝正史原作の次の作品を放送しています。
- 2016年:獄門島
- 2018年:悪魔が来りて笛を吹く
- 2019年:八つ墓村
- 2023年:犬神家の一族
原作の結末は、八つ墓村のネタバレと悪魔の手毬唄のネタバレで書いています。
-
-
八つ墓村のネタバレ|犯人の動機と原作・映画3作で違う結末
鳥取県と岡山県の県境の山中にある、八つ墓村。戦国時代に落武者8人が殺されたこの村で、大正の世に田治見要蔵が一夜で32人の命を奪います。 そして二十数年後、村は再び連続殺人に襲われます。横溝正史の『八つ ...
続きを見る
悪魔が来りて笛を吹くに関するよくある質問(FAQ)
Q1. 悪魔が来りて笛を吹くの犯人は誰ですか?
A. 原作の犯人は、椿家の書生・三島東太郎です。正体は河村治雄で、本物の三島東太郎は戦争で亡くなっています。2018年のNHK版でも、犯人は同じ東太郎です。
Q2. 「悪魔」の正体は誰ですか?
A. 三島東太郎こと河村治雄です。治雄は、秌子とその兄・新宮利彦のあいだに生まれた子でした。
Q3. フルートの曲にはどんな意味がありますか?
A. 英輔の遺した曲は、右手の中指と薬指を使わずに吹けるように作られていました。戦争でその指が欠けた治雄を示す手がかりです。原作の最後には、治雄が自らこの曲を吹きます。
Q4. 原作とNHK版の違いは何ですか?
A. NHK版の東太郎は、金田一に告げられるまで自分の出生を知りません。ラストでは東太郎が秌子を手にかけ、等々力警部に撃たれます。最後に曲を吹くのも、治雄ではなく新宮一彦です。
Q5. 金田一耕助シリーズはどの順で読めばいいですか?
A. 角川文庫の「金田一耕助ファイル」では4番目の作品です。作中の語り手は、この事件を「黒猫亭事件」「夜歩く」より前に書かれるべき事件だったと説明しています。
復讐が物語を動かす作品なら、オールドボーイの原作漫画と映画の結末の違いをまとめた記事もどうぞ。
悪魔が来りて笛を吹くのネタバレまとめ
『悪魔が来りて笛を吹く』は、天銀堂事件の容疑者とされた椿元子爵の失踪から、椿家の連続殺人へと続く物語です。
- 発端は、銀座の宝石店で起きた青酸カリの毒殺事件「天銀堂事件」
- 砂占いの夜、死んだはずの英輔のフルートの音色が響き、玉虫元伯爵が殺される
- 原作の犯人は書生の三島東太郎で、正体は河村治雄
- 治雄は、秌子とその兄・新宮利彦のあいだに生まれた子
- 動機は、恋人で異母妹の小夜子が出生を知って命を絶ったことへの復讐
- 英輔のフルート曲は、右手の中指と薬指を使わずに吹ける
- 天銀堂事件の真犯人は、英輔に似た男・飯尾豊三郎
- NHK版は、東太郎が出生を知る時期とラスト、曲を吹く人物が原作と違う

